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商品はすべてサービスである

企業経営における創発の重要性についていろいろ書いてきましたが、それに関連して絶対触れておかなければならないのが「サービス」です。そもそも創発はどこで生まれるのか? 大きく分けると3つありますが、その中でも最も重要なのが「顧客体験」です。なぜ顧客体験が創発の源泉になるのか? それは顧客体験がそもそも言語化できないものだからです。何を体験したのか、何を体験したいのか、顧客自身も明確には説明できない。なので、あらためて発見されねばならない。そして、その発見を通して新しい価値が生まれる。この顧客体験にまつわるやり取りを「サービス」と呼ぶなら、まさにサービスは創発の場なのです。以下、もう少し詳しく書いてみます。

■メーカー目線と顧客体験のギャップ

たとえば、テレビを考えてみましょう。最近は4Kや8Kといった高画質のものが主流になっています。これについてネットにこんな記事がありました。夫がテレビの技術者で、4Kや8Kがいかにすごい技術かを妻に延々と話したのだそうです。それを聞いていた妻は最後に「で、それは何の役に立つの?」と言ったという話です。確かに4Kや8Kはすごい技術で、実際きれいなんでしょう。でも、そこまできれいである必要があるのか。妻が日常的に見ている番組で4Kや8Kがどれほど必要なのか。妻のテレビ視聴体験の中では、そこまでの高画質は不要と感じられたのでしょう。それに対し、夫はその技術のすごさが分かっているだけに、4Kや8Kには高い付加価値があると思っている。まさにメーカー目線です。このメーカー目線と顧客体験の間のギャップこそが重大な問題なのです。

■生産された時点で価値を持つ(メーカーの言い分)

メーカーからすれば、4Kや8K自体に価値がある。それをテレビという製品に組み込み、製造ラインを通して生産する。こうして出来上がったテレビは、その時点で高い価値を持つわけです。実際、20万や30万といった価格が付き、量販店などの店頭に並びます。20万という価格がついたテレビは市場的には実際20万円の価値があるのです。生産した段階で、少なくも量販店などで値札がついて店頭に並んだ段階で、そのテレビはすでに価値を帯びている。それがメーカーの(あるいは、販売店の)考え方だといっていいでしょう。

■使って初めて価値を持つ(顧客の言い分)

しかし、顧客体験に立ったとき、全く別の風景が見えてきます。まず、20万円の価値があるかどうかを決めるのは顧客です。顧客が20万円のお金を実際に払ってテレビを買ったとき、はじめて20万円の価値が生まれるのです。もし売れ残ったなら、そのテレビはいくら20万円の値札が付いていても、何の価値もなかったとみなされなければなりません。しかし、それで終わりではありません。顧客が買ったテレビを家で毎日見る中で、「何だこのテレビ。画面ももう一つだし、使いにくいし、ああこんなテレビ買わなきゃよかった」と思ったとしたら、そのテレビには価値はないのです。おそらくその顧客はそのメーカーのテレビは二度と買わないでしょう。

とすれば、価値はどの瞬間に生まれるのか? 顧客がテレビを買ってきて、リビングに置いて、見始めて、「わあ、なんてきれいなんだ、素晴らしい!」と感じたその瞬間に生まれるのです。これが顧客体験が生む価値です。この瞬間になるまで、そのテレビに価値があるとは言えない。メーカーは確かにそのテレビに価値を組み込んだつもりなのですが、それは顧客に「価値の要素を組み込んだので、一度試してみてください」と提案しているにすぎないのです。その提案を受けて、実際に試され、価値が生まれるには、顧客の体験を待つ必要があるのです。

■顧客体験に思いを馳せることの重要性

とすれば、メーカーとしては、その顧客体験にどれほど思いを馳せているかが重要になります。4Kや8Kに価値があるわけではない。それが顧客においてどんな素晴らしい体験を生むか、それだけに価値があるのです。たとえば、顧客にとっては画質よりもスマホとの連携の方が重要かもしれません。電車の中でスマホで見ていた映画の続きを、家のテレビでボタン一発で見続けられるといったことの方がよほど価値があるかもしれません。メーカーの論理で4Kや8Kに価値があると決め込むのではなく、顧客体験を徹底的に考え、何を顧客に提案すべきかを模索することが不可欠なのです。

■顧客体験における価値創出=サービス

さて、そこで「サービス」です。実は、この顧客体験において初めて価値が創発されるということこそが、サービスの本質なのです。たとえば、病院で診察を受けるときを考えてください(病院をサービス業と考えます。というか、実際サービス業です)。患者さんが診察室に呼ばれ、お医者さんと向かい合う。この段階ではまだ何の価値も生まれていません。価値が生まれるかどうかもわかりません。で、患者さんは症状を話します。それを聞き終わったお医者さんは、病名や原因、予後などの説明をします。患者さんはなるほどと納得し、状況が分かって安堵します。「やっぱり来てよかった」と思ったそのときに、まさに価値が生まれているのです。

サービスは一般に生産と消費が同時だと言われます。顧客と対面で生産活動が行われ、対面だからこそ同時に顧客は消費します。その場で同時に起こるのです。お医者さんが患者さんから話を聞き、説明をすることと、それを聞いて安堵することはまさにその同じ場で同じ時に起こるのです。これがサービスのサービスたる本質です。

■テレビも「サービス」を行なっている

では、テレビはどうか? テレビは工場で生産されてしまっているではないか? 確かにそうです。なので、テレビメーカーはサービス業には分類されてこなかった。しかし、いまやそこが変わったのです。なるほどテレビは工場で生産された。しかし、本領を発揮するのはそのあとです。工場で作り込まれた機能をフルに使って、顧客の家で電波信号を画像に変えて顧客に見せるという「活動」を行なってはじめてテレビはテレビとなるのです。そして、この活動は、まさに顧客と対面で行なわれ、電波信号の画像への変換という「生産」とそれを顧客が見るという「消費」は同時に起こっているのです。なので、「わあ、なんてきれいなんだ、素晴らしい!」という価値創発はまさにこの瞬間に初めて起こるのです。テレビはまさに「サービス」を行なっている。つまり、その瞬間の顧客体験において初めて価値を生み出しているのです。

【結論】いわゆる製品も、いわゆるサービスも、すべて「サービス」です

これはテレビだけのことではありません。クルマも冷蔵庫も半導体製造機器もみな同じです。つまり、顧客体験における創発に軸足を置くならば、製品とサービスの区別はありません。いわゆる製品も、いわゆるサービスも、すべて「サービス」に至りつきます。すべてはサービスなのです。創発を顧客体験において捉えるかぎり、すべてをサービスとして捉えなおさなければならないわけです。

これから何回かに分けてサービスについて書いていきたいと思います。

 

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