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【2019年11月21日放送】[小松製菓]従業員の幸せが会社を強くする!老舗せんべいメーカーの感動復活劇

ダボス会議でアメリカの経営者団体が「株主資本主義」から「ステークホルダー資本主義」へ変わるべきだと提言しました。株主の意向で利益や株価ばかりを追求するのではなく、環境や社会、従業員やパートナーといったステークホルダーとの関係を第一に考えるべき、ということかと思います。SDGsやESGなども含め、こうした「倫理性」の重視は時代の大きなうねりとなっています。たとえば、従業員は会社の単なるリソースなのか、それとも大事な価値提供の対象なのか、そうしたことが問われる。今日のテーマはそうした時代の最先端の話です。

■地元から愛される菓子メーカー

小松製菓は岩手県二戸市にある菓子メーカー。南部せんべいのトップメーカーです。とは言っても、大企業ではありません。社員数260人の地場の中小企業。しかし、地元では知らぬ人のない会社です。この小松製菓、南部せんべい作りの多くの過程を人の手で行なっているのだそうです。手間暇をかけたせんべいづくりが多くの人の支持を得ているのです。

また、小松製菓は、岩手の伝統菓子を地域を代表する菓子に変貌させました。南部せんべいはもともと地味なお菓子です。それを小松製菓は200アイテムに展開したのです。いかせんべい、りんごせんべい、カレー味、チーズ味、割りしみチョコせんべいなどなど、意外性のある新しい味を続々と開発していった。また、嚴手屋というブランドをつくり、郷土菓子であった南部せんべいを贈答品にまで高めたのです。さらに、伝統の味を守るために、逆に味を変え続けている。人々の味覚はどんどん変わります。その変化に合わせてせんべいの食感も、硬さや厚さの研究・検証を行いながら進化させているのです。

■創業者小松シキが築いた「思いやり」の土台

ですが、小松製菓が地元で絶大な支持を得ているのはそれだけの理由ではありません。地元でも人気の就職先で、地元の誇りとなっている小松製菓ですが、これほどの支持の背景には創業者の小松シキさんがいるのです。現会長の小松務さんのお母さんである小松シキさんは1918年生まれ。父や兄弟を立て続けに亡くし、12歳でせんべいやに奉公に行きます。貧しい生活だったといいます。そのシキさんが、戦後1948年に南部せんべいの店を始めます。高価な機械を導入するなど、ビジネスセンスもあったようです。

自身が貧しかったせいか、人に大変優しかったといいます。「自分が貧しい家に生まれて苦労したので人の痛みが感じられた」。「体の悪い人や貧しい人に対して猛烈にやさしかった」。「みんなを喜ばせることをやりたいと言っていた」。従業員に子供ができ、辞めたいと言うと、子供を連れて来てもいいと言い、従業員みんなで子供の世話をしたとのこと。結婚するという従業員がいると嫁入り道具まで持たせたんだそうです。いまでも退職した社員がボランティアで店の周りを清掃しているのですが、口々に言うのが「シキさんには本当にお世話になったから」。こうしてシキさんが小松製菓の土台を築いていったのです。

■現会長、「売上病」からの脱却

もちろん、この土台はシキさんの個人的な生い立ちや性質に依拠したものでしょう。ですが、息子の現会長、小松務さんは、それを自覚的に会社の基礎へと定着させてきた。小松務さんは、高校卒業後小松製菓に入社。上述の新アイテムを次々開発し、会社をどんどん大きくしていった。バブル期には洋菓子まで手掛け、18店舗へ拡大。しかし、バブルがはじけ1993年に初めて赤字に転落します。それからは借金地獄。自殺まで考えたんだそうです。そんなおり、当時すでに一線を退いていたシキさんがたまたま工場に来ていて、従業員に慕われ、楽しそうに話しているのを目にし、それまで「売上病」にかかっていたことに気づきます。売上を上げることが従業員の幸せではないのだ、と。それから、店舗の半分を閉鎖。400アイテムあった商品を半分の200アイテムに。従業員が楽に仕事ができるようにアイデア装置をつくり、従業員の働きやすさを考えて工場の中を改善して、生産性を向上し、危機を脱していったのです。

■「社員と思うな。お客さまだと思え」

こうしてシキさんの言葉が会社の文化になっていきました。なかでも重要だと思ったのが次の言葉です。「社員と思うな。お客さまだと思え」。
「社員も退社していく。ずっと長く愛してもらわないと、この小さな町では生きていけない」。「社員はお客さまという思いでやれば、おらが会社という愛社精神が生まれる」。もちろん、シキさんの育った境遇やもともとの性質もあったでしょう。ですが、それはさらに経営者としての信念へと育っていったのではないか。社員はふつう会社のリソースです。しかし、その社員をお客さまだと思うということは、社員も価値提供の対象だということです。お客さまに最大限の価値を提供するように、社員にも最大限の価値を提供する。なぜか? 「社員も退社していく」からです。地域密着の企業にとって、実は社員とお客さまの区別はありません。みな、地域の人たちです。「この小さな町でいきていく」ためには社員はお客さまである以外ない。社員の幸せを懸命に考えれば、それが地域に浸透し、地域から支持され、お客さまから愛されるようになる。このとをとシキさんは肌感覚で理解していたのでしょう。

■コスト負担にはなるか、損益の問題ではない

こうして小松務さんはシキさんとともに、自社の基礎を築いていきます。たとえば、保育手当。保育園や幼稚園に預けていると一人10000円が支給される。また、雇用も、定年後70歳まで正社員として働ける。さらに70歳を超えても働ける道がある。定年を選んだ人には、小松製菓が運営する飲食店、四季の里で働けるようにする。また、退職者を集めた食事会を年2回開き、定年まで20年以上勤務した社員を招待。年金と称しておこづかいを渡す。こうした施策を実施していったのです。もちろん、コスト的には負担になるといいます。しかし、損益の問題ではない。「母はいっていた。あなたが好き、幸せになってねと思えば、その気持ちは返ってくる」。「良い社員を作るにはこっちが良い会社にならないとダメ」。

【結論】価値観の伝承こそが、企業倫理の本質

従業員と地域を何より大切にする。これは紛れもなく「ステークホルダー経営」でしょう。ちなみに、バレンタインデー事件というのがあったそうです。南部せんべいを細かく砕いて、最高級のチョコレートでコーティングした「南部チョコ」という商品。2009年の発売以来、これまでに250万個を販売したヒット商品なのですが、あるときバレンタインデーを前に担当者が商品が足りなくなると大量発注をしたのだそうです。それを知った小松務さんは、販売時点での賞味期限が1週間しかないことを見て、すべて廃棄処分にさせた。1300万円の損失。「これは神様に試されてる」。「母は「天が見ている。正直に生きろ。一番の宝は信用だ。信用を失うようなことはするな」と言っていた」。ここにこそ、企業の倫理性の本質があるのだと思います。大企業とは違う中小企業ならではの文化かもしれません。しかし、こうした価値観の伝承にこそ、企業倫理の基本があるのではないでしょうか。企業倫理やステークホルダー資本主義といった最先端の経営が岩手県二戸市の菓子メーカーで実現されているのを見て、感じ入った次第です。

 

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