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【2019年10月24日放送】[キッコーマン]縮小市場でも成長を続ける奇跡の経営 世界に醤油を広めたレジェンドが指南!

キッコーマンと言えば醤油と私も思っていました。もちろん、醤油なのですが、でもこんなにイノベーティブな企業とは知りませんでした。豆乳、濃厚トマトジュース、いつでも新鮮シリーズ、パウダー醤油などなど。アメリカに初めて醤油を持ち込んだのもキッコーマンなんですね。今回番組は面白い企画になっていて、キッコーマン名誉会長の茂木友三郎さんが悩める中小企業に経営指南をするという場面まであり、それも含めて、キッコーマンのイノベーションの核心が明確に示されていました。それは現在のイノベーションの方法論と合致するところが多く、一つの実証例になっていると感じました。今回はそうしたことを前提にキッコーマンのイノベーションのポイントを追ってみたいと思います。

■顧客の潜在的な欲求

茂木友三郎さんは「新たな需要の創造」と言います。需要はすでにあるものではなく、創り出すもの。ポイントは「消費者が欲しいと気づいていない欲求を顕在化する」ところにあります。顧客が「これこれのものが欲しい」と言い、それに応えて「はいどうぞ」と差し出すのではない。つまり、「顧客ニーズ」ではないのです。茂木さんはユニクロのヒートテックを例として挙げていましたが、着ているだけで暖かくなるようなアンダーウエアが欲しいと消費者から声を上げたわけではない。ユニクロが技術を駆使して暖かくなるアンダーウエアを開発し提案してはじめて、消費者は「そうだ、こんなのが欲しかったんだ」と心のうちに潜んでいた欲求に気づいたのです。「人々は、「こんなものが欲しい」と思った商品ができると、それに飛びつく」。

消費者が自分でも気づいていない欲求を探り当てることをデザイン思考ではインサイトと呼んでいますが、まさにこれはイノベーションの重要な出発点です。1973年に茂木さんはアメリカに醤油工場を建て、進出します。これがまさに典型的ですが、アメリカに醤油に対する「ニーズ」があったわでではありません。そもそも醤油を知らないのですから。しかも茂木さんは和食とともに醤油を浸透させようとはしなかった。むしろ、肉料理に合う調味料として醤油を売り出した。それは完全に「潜在的な欲求」です。誰も気づいておらず、想像もしていない。しかし、試してさえもらえれば醤油のうまみや香りが洋食とぴったり合い、消費者の心をとらえ、「こんなうまいものがあったんだ」と潜んでいた欲求に気づくはずだという思いがあったんではないでしょうか。

■需要の創造、市場の創造

こうして、誰も気づいていない潜在的欲求が顕在化し、需要を創出することにより、市場で独り勝ちする可能性が高まります。誰もやっていないからです。もちろん、最初は苦労するでしょう。アメリカでは「醤油? 何それ?」から始める以外ないからです。茂木さんも「非常に大きな努力を要する」と言っています。しかし、それを乗り越えられれば、そこにはブルーオーシャンが開けるわけです。もちろん、苦労して切り開いた市場には競合は容赦なく入り込んできますから、その後は激しい競争の中での生き残りが必要となりますが(クリステンセンの言う持続的イノベーションですね)、しかし、需要の創造、市場の創造が大きな成果をもたらすことは何より強調しなければなりません。実際、キッコーマンはこれをきっかけに海外進出を進め、現在海外売り上げが2700億円になっているのです。

■やるべきだからやる

こうしたイノベーションを起こすとき、確信や自信がないとダメなんじゃないかと思ってしまいますが、必ずしもそんなことはない。「いつでも新鮮シリーズ」(劣化しない醤油)をやったときには、「自信があったわけではないが、非常に画期的であることは事実」と考えたと言います。醤油の最大の問題は酸化だった。時間がたつと黒くなって味も落ちる。これを解決すれば、画期的な醤油になると考えた。私はここに醤油に対する使命感のようなものを感じました。売れるだろうとか、ヒットするだろうとか、儲かるだろうとか、そんなことより、やるべきだ、というところからイノベーションが生まれてくるということです。この酸化問題は画期的な密封容器の開発によって解決するのですが、その開発には20年を要したといいます。本当に売れるだろうか、本当に儲かるだろうかというような不安にからめとられていてはとても乗り越えることのできない年月です。やるべきだからやるのだ、という使命感こそが最も強靭な推進力になるのではないでしょうか。ここには「アート思考」や「ビジョン思考」と通じるものがありますが、やはりイノベーションにとって重要な要因なのだと思います。

■試作とテスト

では、そんな使命感だけで突進していっていいのでしょうか? ここで「経営指南」が参考になります。番組では大阪堺市の中小企業の経営者に茂木さんがアドバイスをするという場面がありました。そこは創業90年のこんにゃくメーカー。30代とまだ若い社長は「今まで通りのこんにゃくを今まで通り売っていくだけではジリ貧になる」という危機感をいだいていて、「新しい活路を見出さないといけない」と挑戦を繰り返していました。しかし思うようにいかない。こんにゃくを果物などといっしょにミキサーにかけて作るこんにゃくスムージーの店を新宿に出したが、あまり売れず、2か月で閉店。それがきっかけか、10人の社員が去って行ったといいます。そして今度はタピオカこんにゃく。タピオカそっくりのこんにゃくを作り、飲料にするのです。「失敗はできない」。

ここまでをVTRで見た茂木さんは、「アイデア先行。詰めが足りない」と指摘しました。「詰め」とは何でしょうか。「試作をしてテスト販売すること」。こんにゃくスムージーのアイデアを思いついて、開発し、すぐに店を出す、ではダメなのです。なぜなら、それではその商品が本当に顧客の心を射当てているかかどうか分からないからです。「消費者の反応を見ながら試作品を修正していく。ある程度の反応があるところまで作り込まなければダメ。それから本格的に販売」。顧客の潜在的な欲求には顧客でさえ気づいていないのです。まして、企業側に簡単に見えるわけではない。そこに近づいていくためには試作品でテストして顧客の反応を見るということを繰り返していく以外ないわけです。これは、リーンスタートアップの考え方やデザイン思考のプロトタイプ・テストとも共通していて、イノベーションを現実化していくときのポイントでしょう。

■企業全体への浸透

最後にもう1つ、新しい「たれ」を開発していた社員が話していたことです。「新しい食べ方、形状、常に新しい視点で需要を創造していかねばならない」。まるで、茂木さんが話しているようでした。茂木さんの考え方は開発現場の社員にまで浸透しているのです。経営者や経営層だけが空回りしているようではイノベーションは望めないでしょう。イノベーションは企業として実行するものです。企業全体の文化や風土が創造性を重視するものにならなければ、息の長い変革は難しのです。

【結論】使命感やビジョンこそが企業を創造へと駆り立てる

このように、キッコーマンの経営には代表的なイノベーションの要因が働いていることがわかります。私が一番ポイントだと思ったのは、顧客も気づいていない潜在的欲求を探り当てていくという点です。顧客の支持を得られなければビジネスにはなり得ません。しかし、顧客もわかり切っているようなニーズに応えても、すぐにコモディティ化してしまいます。顧客も気づいていない顧客の欲求こそが、大きなイノベーションの源泉になるのです。そして、それは顧客も気づいていないからこそ簡単に探り当てられるものではなく、繰り返して試作・テストすることによってはじめて接近していけるものなのです。この試作・テストには場合によっては長い年月がかかるでしょう。それを支えるのが使命感やビジョンです。結局、使命感やビジョンこそが企業を創造へと駆り立てるのではないでしょうか。

 

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