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【2019年10月17日放送】[オーダースーツSADA]迷ったら茨の道を行け!激安オーダースーツで業界に風穴

「オーダースーツが19,800円から」と聞いただけで、それがイノベーションであることはすぐわかるでしょう。常識的にはあり得ないからです。いまどき、まず、オーダースーツというものがあまりない。みな既製品。もしオーダーしたらと想像すると、10万円以上かなあ、という感じ。とすると、オーダースーツを19,800円からというのは、ほんとにあり得ないわけです。価格破壊的イノベーション(ユニクロがフリースで出てきたときも、これでした)。問題は、こうしたイノベーションがなぜ可能になるのか、です。ただ、今回はどうやればこんな斬新なアイデアが出るのかといった話ではありません(残念ながら、その点については番組では全く触れられていませんでした)。何がイノベーションの背景的な要因かがポイントです。イノベーションを起こすにはどんな背景的要因が必要なのか。今回については、私が見た限り3つあります。危機と組織能力、そしてチャレンジのマインドセットです。

■会社の歴史は組織能力蓄積の歴史

まず、イノベーションには何と言っても組織能力(技術力や設備、人材など)が不可欠です。オーダースーツSADAは、もともは1923年に現社長の曾祖父が創業。服の生地の卸と製造をやっていた。その後、オーダースーツの縫製下請けへと事業を展開します。ここからわかることは、まず会社の歴史として、生地が作れる、少なくとも生地のことがよくわかる、その上で縫製技術があるということです。

バブル期はスーツはファッションでした。その中で、百貨店のオーダースーツを請け負うようになり、急成長を遂げます。1990年には中国の北京に工場を建てます。この工場がすごくて、マシンオーダーメード。CADでスーツの型紙を作り、マシンが自動裁断。しかし、縫製は人の手で丁寧に行う。国内の工場では勤続何十年というベテランが携わっています。自動化と手作りの統合。これはすごく貴重な組織能力です。これをやったのは現社長のお父さんでした。

■危機の中で「新しいことを始めなければ」

しかし、2000年に大口顧客の百貨店SOGOが経営破綻します。これにより赤字転落。これをきっかけにそれまで東レに勤務していた現社長の佐田展隆さんは父から帰ってくるように言われます。当時の状況は借金が25億円(売上は22億円だったそうです)。給料の遅配は当たり前。従業員との話し合いの内容は、遅れず払うということではなく、どれぐらい遅れてもかまわないかということだったといいます。佐田さんは、自分の人生を終わらせたA級戦犯は父だとの怒りが抑えられず、親子喧嘩。ところが、経理部長から「会社で親子喧嘩はやめてください」と泣いて言われた。修羅場の中でこの経理部長の言葉が佐田さんの心に響いた。こんなことをしていても何も変わらない。「何か新しいことを始めなければ」と思ったといいます。

危機は新しいことを生み出す重要なきっかけになります。しかし、この危機の中で「何か新しいことを始めなければ」と思うのは、当たり前なことではないと思います。たぶん、ふつうなら既存の事業をどうするかばかりを考えるのではないでしょうか。既存の事業をいじくりまわすわけです。なぜなら、いまさら新しことを始めても、うまくいくかどうか全く見通せないからです。もう潰れかけているのに、そんな不確かなことに手を出せるはずがありません。でも、佐田さんは新しいことを始めようと思った。

ですが、実はこれは危機に面しての原則ではないかと思います。既存事業をいじくってどうかなるなら、とっくにやっているでしょう。万策尽きている可能性が高いわけです。このままでは潰れる。ということは、このままではダメ、ということです。なら、新たなことをやるしかない。ここは困難ではあるが、実は決定的なポイントではないでしょうか。

■組織能力が新しいことを可能に

では、なぜそれができたのか。さらに言えば、低価格オーダースーツという斬新なアイデアをどうやって思いついたのか。以下はわたしの推測ですが、やはり1923年から連綿と培ってきた組織能力があったからだと思います。すでに国内に1工場、北京に1工場あるわけです。しかも、CADと自動裁断、そして熟練の職人。しかも生地のこともわかる。それらを駆使して下請けでやってきたということは、当然納入価格を考えてコストも相当抑えられていたのではないかと思います。百貨店の店頭価格よりは格段に低い価格で作れていたと想像できるのです。長年の間培ってきた自社の資産が生み出す低価格。こうした自社の組織能力、強みをよくよく見れば、おのずと展望が開けてきたんじゃないか。この低価格でそのまま直販に打って出ればいい、と。低価格オーダースーツはこんなふうに佐田さんの脳裏に浮かび上がってきたのではないか。それが私の推測です。

たとえば、オリジナル生地が200種類以上。これは生地に詳しい組織能力が生きています。仕立ては高級テーラー並み。採寸の話をされていましたが、採寸とは体の寸法を測ることではない、体の寸法からスーツの寸法を割り出すことなんだそうです。これは人によって違う。たとえば、社長さんと外回りの営業さんではスーツに要求される寸法が違うのです。なので、体の寸法を測りながら、その人に合わせてスーツ寸を見抜くことが何より重要になる。こうしたことは長年のスキルやノウハウの蓄積の中で培われてきたものでしょう。

■生き残りのカギはチャレンジ

組織能力もさることながら、佐田家代々のDNAも不可欠でした。佐田さんは子供のころよく「迷ったら茨の道を行け」と言われてきました。佐田家の中には「やるべきはチャレンジせよ。そうしないと生き残ることすらできない」という雰囲気があったそうです。実際、先代も北京に工場を作りました。多額の借金の原因になったとは言うものの、この工場がなければ、今日の低価格オーダースーツは不可能だったといいます。「父もちゃんとチャレンジをし次の種を作ってくれていた」。チャレンジするというマインドセットがなければ、復活もなかったでしょう。

低価格オーダースーツの話は、初め関係のあるテーラーに持って行ったそうです。しかし、「うちのお客さんはそんな安物は着ない」と相手にもされなかった。そこで、2004年に自社で実験店舗をオープン。お客さんが殺到したといいます。その後も茨の道が続き、紆余曲折あったものの、今日、全国53店舗、売上37億円のオーダースーツ専門チェーンとなったのです。

【結論】危機の中で、資産を再認識し、そしてチャレンジする

既存企業の場合、危機感なしにイノベーションを起こすことは難しいでしょう。そして、危機に陥ったときにまず再認識すべきは自社のリソース、組織能力なんだと思います。佐田さんは言います。「2代目、3代目が家業が古臭いというが、経緯を見て考え直してみると次世代の種がそこに絶対ある」。危機の中でそれを再発見し、チャレンジするマインドセットを土台とし、資産をフル活用して新たなものを生み出す。ここにイノベーションが起こるのではないか。1つのイノベーションの形かもしれませんが、学ぶことは大変多いのではないかと思いました。

 

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