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【2019年10月10日放送】[銀座ルノアール]伝統と革新で成長、業界唯一無二の喫茶店

銀座ルノアールは、喫茶店です。関西人にはあまりなじみがないのですが、関東では老舗。最近はカフェが増え、「喫茶店」は激減している感覚があります。いわばすでにオワコン状態なわけで、衰退一途の業態のように見えます。しかし、銀座ルノアールは9年連続増収で、現在売上80億円。なぜ? 前回、「湖池屋」でビジョンの重要性について書きましたが、実は今回も鍵はビジョン。自分たちは何者なのか、自分たちの存在価値は何なのか。迂遠に見るかもしれないが、結局そこに立ち返ることがイノベーションを生み出す。それが、今回のテーマです。

■創業者の祖父の原点

銀座ルノアールはもともと昭和30年に現社長の祖父が始めた煎餅屋が全身。時代の流れの中で、喫茶店業に乗り出します。当時コーヒーは贅沢なもの。いわば時代に先駆けていたわけで、ホテルのラウンジにも負けない高級店を目指し、昭和39年に「喫茶室ルノアール1号店」をオープンしました。高級感にこだわりすぎて絨毯にお金をかけすぎ、テーブルと椅子を十分に買えなくなってしまったといいます。仕方なく、少ないテーブルと椅子を店内に広く置いた。ところが、この偶然が幸いします。テーブル間の距離が広がり、広々とした間隔が顧客に受けたのです。これが今日まで「1坪1.5席」という同業他社ではあり得ないくつろぎの空間の原点になったのです。

創業社長の祖父は清潔と接客にこだわった。現在でも1時間に1回トイレ掃除をするというルノアールですが、当時社長自らトイレ掃除をしたと言います。接客も徹底。言葉遣いから立待ちの時の姿勢まで、徹底的に行き届かせた。こうした価値観と考え方が現在まで脈々と受け継がれていることは間違いないでしょう。

■3年連続赤字、セルフ式カフェに

現社長の小宮山誠さんは1997年に入社します。その頃はすでにデフレ時代。ドトールなどコーヒー1杯200円台のカフェが続出する中で600円のルノアールは苦戦。またスターバックスも大きく伸ばし、セルフ式カフェが市場を席巻し始めた頃でした。ルノアールは3年連続赤字に。強い危機感がありました。そんな中小宮山さんは自分たちもと、セルフ式カフェに乗り出します。「ニューヨーカーズカフェ」の名前で始動。初めはたくさんのお客さんが入り、売上も大きく上がりました。しかし、まもなく減少に転じます。要するにどこにでもあるカフェだったからです。

■ルノワールの価値とはなにか?

そんなとき、小宮山さんは、喫茶店経営者仲間である「談話室滝沢」の専務に当時の社長である父文男さんと一緒に呼ばれます。「談話室滝沢」はコーヒー一杯1000円とルノワール以上の高級喫茶店でした。時代の流れの中で廃業することになり、呼ばれたのはその直前でした。専務は喫茶店の価値をぜひルノワールに守ってほしいと言葉を尽くして語ったといいます。小宮山さんはこの言葉に心を動かされました。セルフ式カフェで頭がいっぱいだった小宮山さんは後頭部をたたかれたような衝撃を受けました。

要するに、ルノワールの価値とは何なのか? 喫茶店の価値とは何なのか? そこが問われたのです。そもそも自分たちは何者なのか。自分たちの存在価値は何なのか。セルフ式カフェへと時代が大きく流れる中で、自分たちもと追いかけているが、それが本来の自分たちの姿なのか。そんな流れの中にあっても、自分たちが大切にしなければならない変わらぬものがあるのではないか。そういうことだったんだと思います。ただセルフ式カフェを追いかけても、どこにでもあるようなものにしかならない。重要なことは「他にはない」ということでしょう。ここだけ、他にはない、そう言われることでしょう。それは単に流れを追いかけることからは生まれてこない。自分たちの本来の存在価値に立ち返ることによってはじめて「他にはない」が出てくるのだと思います。

■原点を軸としつつ時代に対応

小宮山さんは言います。「ルノアールの価値とは何か。快適な空間の提供とおもてなし。それをやり続けること」だと。祖父の創業の原点へと立ち返ったということでしょう。ですが、ここで重要なことがあります。それは単に昭和39年に還るということではないということです。時代はやはり流れ変化しているのです。「単に昔に戻るわけではない。軸は同じでも枝葉の部分は時代に合わせて柔軟に対応していく」。自分たちの変わらぬ存在価値を軸としつつ、枝葉は時代の流れに合わせて柔軟に変えていく。ここにはじめて他にはないかけがえのなさが生まれてくるということでしょう。

くつろぎの空間は今も引き継がれています。1坪1.5席で余裕があるスペースです。また、長居ができる。8時間いるお客さんもいるんだそうです。帰るように言われることはなく、逆に無料で緑茶を出してもらえる。ですが、それだけではありません。スタバなどでパソコンを出して仕事をしている人を見かけますが、ルノアールはもっと徹底しています。各席ごとにコンセントがあり、電源は使い放題。さらに無料で使える名刺スキャナーまである。驚いたのは貸し会議室があること。一人1時間1270円で8人部屋の会議室が借りられるのです。また、モーニングが安い。60円から200円。2つ注文する人もいるとのこと。さらにミヤマ珈琲という名前で郊外にも喫茶店を展開しています。ここのお客さんは地域の人。定年を迎えた地元の会社員が通える。また、地域のコミュニティサークルに活動の場を提供しており、フラワーアレンジメントや英語教室などを飲み物代だけでふつうの6人掛けの席でやっていたりします。軸である「快適な空間とおもてなし」を提供しながら、同時に時代の流れに徹底して対応しているのです。

■ルノアールでないとダメ

こうしてルノアールは何を得たのか? 「しっかりロイヤルカスタマーがついている。ルノアールでないとダメという人がいる」。ルノアールだけ、他にはないという「かけがえのなさ」を得ているのです。長居する人が多い(つまり、回転率が悪いわけです)中で、利益が出せるのは、まさにこのロイヤルカスタマーのゆえなのです。

【結論】創造的とは、原点を原動力としながら目の前の顧客に対応すること

時代の流れに対応するとは、つまり、顧客の思いに対応するということでしょう。創造的になるためには、まずは自分たちの原点と言ってもいい存在価値を明確に理解している必要があると思います。そして、右顧左眄することなく、常にその原点に立ち戻る。その上で、その原点を原動力としながら、いまの目の前の顧客の思いを理解し、その思いに何とか応えようと工夫するときに、企業は真に創造的になるんだと思います。銀座ルノアールはそうした企業の典型だと感じました。

 

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