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【2019年9月12日放送】[能作]錫100%の技術力と魅惑のデザインで客を魅了。下請け鋳物工場が世界に羽ばたいた秘密!

いまさらですが、イノベーションは新たな組合せ new combination だと言ったのはシュンペーターです。同じようなもの(人)が寄ったのではイノベーションは起きない。異質なもの(人)が接触してはじめて大きな革新が生まれるということなのですが、今回の能作はまさにそういう企業だと思います。錫100%の鋳物食器で海外でも人気の能作。ですが、もともと仏具や花器を作っていた下請けの鋳物屋。それがなぜこのようなイノベーティブな企業に生まれ変わったのか。そのキーワードが異質なものの接触です。

■曲がってしまうなら曲げて使う

海外でも高い評価を受けているのが、「KAGO」という製品。文字通り籠なのですが、平面状のものを曲げることにより、かごになる。錫はもともと柔らかすぎてそれだけでは使えません。なので、他の金属と混ぜて使う(つまり合金。たとえば、青銅は銅と錫の合金です)。それをあえて錫100%にこだわった。曲がってしまうという欠点。なら、曲げて使えばいいという逆転の発想です。その他、たとえば錫100%のタンブラー。熱伝導率が良く、ハイボールでも氷が解けない。錫100%のぐい飲みは、お酒がまろやかになって、おいしく感じるのだそうです。

■もともと鋳物とは無関係

こうした斬新な製品がどのようにして生まれたのか。社長の能作克治さんはそもそも鋳物とは何の関係もなかった。大阪芸術大学を卒業した後、新聞社でカメラマンをやっているとき、能作の一人娘と恋愛。お義父さんからは、一人娘なので外には出せないと言われ、能作に婿に入ることに。全くの素人で鋳物産業に飛び込んだわけです。入ったときは能作は上記のとおり下請け鋳物工場にすぎませんでした。その中で18年間一鋳物職人として働いたそうです。社長に就任したのは2002年のことでした。

■「鋳物」と「デザイン」。異質なものの接触

あるとき工場見学に来ていた地元の母子の会話が言葉が耳に入ってきた。「あなたも勉強しなかったらあんな仕事につくことになるわよ」。これが能作克治さんには大変なショックだった。高岡は鋳物の町。本来誇りに思ってもいい産業のはず。それが「あんな仕事」とは。このままでは高岡の鋳物産業に未来はない。そこで能作克治さんは自社製品をつくろうと思った。たぶん、いきなり思ったわけではないでしょう。18年間の鋳物職人時代からずっといろいろ考えていたはずです。能作克治さんは芸大で学んだデザインが役立ったと言います。そもそも鋳物屋ではなかったわけです。もともとデザインやアートの人。「鋳物」と「デザイン」という全く異質なものが、ここで接触するのです。仏具や花器が「デザイン」によって変革されることになるわけです。

■店員を通して顧客の声を聞く

初めにつくったのは、ベル(振るとカランカランとなるベルです)。これをセレクトショップなどで販売した。でも、売れませんでした。すると店の人が、これを風鈴にしたらどうかと言った。そのとおりやると、この風鈴が売れた。3か月で3000本。ベルの100倍売れたそうです。ここから売る人の声を商品開発に生かそうと店員の声を集めるようになった。これは、つまりは、顧客の声を聞くということでしょう。顧客自身ではないとしても、常に顧客と接している店員なら顧客の気持ちを一番よくわかっているはず。工場の中ではわからない顧客の思いを店員を通じて掴む。中小製造業の陥る「顧客ニーズがわからない」という問題を見事にクリアしたのです。

■そして世界初の錫100%の食器

そんな店員たちが、「もっと身近なものをつくれないか」と言ってきた。「たとえば?」「食器」。そこで食器類をつくることに。しかし、ただ食器をつくっただけではしようがない。こうしていろいろ探し求めた末、たどり着いたのが「錫100%」でした。これは誰もやっていない。錫100%は、柔らかすぎて世界中で誰もやっていなかったのです。要するに使い物にならないということでしょう。しかし、ここで異質な人間の異質な発想が生きてきます。異質な人は常軌から外れる発想ができるのです。使い物にならないこそ使える、と。

上述のように、曲がるなら、曲げて使えばいいという発想。さらに、錫100%は砂型による鋳造という高い技術を使うのですが、ふつうやる鋳造後の研磨が柔らかすぎてできない。そこで砂の跡がそのまま残る。ですが、これが微細な模様になり独特の質感と魅力を出すのです。たぶん、「この器、いいなあ」と思うかなりの部分が、この模様と質感によるんじゃないかと思います。柔らかすぎて研磨もできないという欠陥が、見事に魅力となるわけです。

■異分子だからこそ「常軌」を逸脱できる

能作克治さんは、高岡ではいわば異分子でした。他県から来た人のことを富山では「旅の人」と言うんだそうです。「あんた、旅の人やからね」と。さらに「お婿さん」というのもあまりよろしくないらしく、さらに「鋳物屋のあんちゃん」というものよくない。「三重苦でした」と。しかし、だからこそ「あいつがやるならしょうがない」と思われて、思い切ったことができたんだそうです。また、「旅の人」だからこそ、「あいつは何も知らんやろ」といろいろ教えてもらえた。異分子だからこそ、高岡の「常軌」から逸脱し、デザインという異質なものを駆使して、これまでに全くない鋳物を創り出せたのです。

■すべては地域のため

2017年には念願の新本社工場が完成します。面白いのは初めから単なる工場じゃないということです。カフェレストランがあり、錫100%の食器で食事ができる。鋳物見学では間近で職人の技が見られる。自分で錫100%の食器が作れるという鋳物体験会もある。いまや年間12万人が来る観光スポットになっているとのことです。やはり、あの母子の会話が原点にあったんですね。鋳物のすばらしさを子供たちに直に体験してほしい、と。現在では、子供のときに見学に来た人が入社してくるんだそうです。

こんな工場とも思えない工場で、ひときわすごいと思ったことがあります。現役で使っている鋳物の型枠をそのまま展示してあるのです。ふつうは倉庫にしまってあるはずのもの。技術が漏れるからです。それを来場者すべてに見えるようにしてある。能作克治さんは隠す気はないと言います。なぜなら、それで高岡としてみんなが潤えばいいから。「伝統産業だから地元がなければ仕事にならない」。高岡という鋳物の町を再び復活させたい。「旅の人」はすでに高岡の人となり、高岡の復活のために手を尽くしているのです。

【結論】異質な者こそが未来を生み出す

イノベーションとは、結局のところ、「常軌を逸する」ことなんだと思います。とすれば、「常軌」の中に安住している同質的な人にはイノベーションは難しい。「旅の人」、つまりよそ者、異質なものこそが、常軌を逸脱していくことができるのです。伝統的な鋳物産業とデザインを理解する「旅の人」が出会うとき、常軌が崩れていく。そこに活力と未来が生まれてくる。未来を生み出したいのなら、異質な者でなければならない。そう言うことなんだと思います。

 

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