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【2019年8月22日放送】[東亜工業]餃子ブーム!陰で支える町工場の「餃子革命」

世の中にないものを創り出すことをイノベーションと呼ぶとするなら、そのためにどんな条件が必要なのでしょう。今回の東亜工業からはそれが見えてきます。東亜工業は餃子製造機一筋の中小企業です。社員数45人の会社がその方面ではシェア60%を占めている。世の中にそれまでなかった餃子を自動的に作る機械をはじめて開発したからです。このイノベーションを探っていくと、5つの要因が見えていきます。今日はその話です。

■思い

東亜工業は現社長、請井正さんの父、請井由夫さんが1963年に立ち上げました。それまで丸正自動車でライラック号というバイクの開発に携わっていたエンジニアだったのですが、会社が倒産。創業し、主に自動車部品の製造を行なっていました。しかし、正さんによれば、由夫さんには「世の中に自分の作ったものを認めてもらいたい」というエンジニアとしての強い思いがあったとのこと。ただの自動車部品製造では納得いかなかったと思われます。

こういう思いは理屈ではありません。その人の内から湧き上がってくる、衝動のような力を持っている。番組でも「世の中にない役立つもので、自分の持っている技術が生かせるものがあったら、すぐにでも作っちゃう人だったのではないか」と言われていましたが、こういう強い思いが世の中にないものを生み出すときの原動力になることは否定できないでしょう。

■ひらめき

しかし、当初はその「世の中にない役立つもので、自分の持っている技術が生かせるもの」がよく見えなかったようです。プレジャーボートを開発したものの販売にまでは至らないといったこともあった。そんな折、由夫さんはふと入ったラーメン屋で餃子づくりを目にします。店主に聞くと朝早くに来て餃子を作り、夜も閉店後遅くまで餃子を作っているとのこと。それを聞いたときひらめいた。これを自動化する機械を作れば役立つんじゃないか。

そこで餃子製造機の開発に没頭することになるのですが、重要なことは、ひらめきが膨大な努力につながっていくということでしょう。ちょっとしたひらめきは誰にでもあるかもしれません。ですが、多くはそのままスルー、消えていきます。由夫さんは、いわば「ハマった」。それは「世の中に自分の作ったものを認めてもらいたい」という強い思いがいつも底流を流れていたからでしょう。その思いがラーメン屋で餃子づくりと合体した。この瞬間に、餃子製造機は由夫さんの中で無限のリアリティを持ち始めたと思われます。

さらに重要だと思うのは、それが「市場調査」などから始まっていないということです。いろんなラーメン店や餃子店を調べて回った結果、餃子製造機が有効という結論に達したのではなかった。このラーメン店1店、その店主一人の話でひらめいたのです。本質的なことは市場調査ではわかりません。アンケートをしてもだれも「餃子製造機を作ってくれ」とは書かなかったでしょう。それは、そのときのラーメン屋の体験の中で由夫さんの頭にひらめいたのです。

■技術

もうひとつ重要なことがあります。技術的前提です。由夫さんは根っからのエンジニアだったようです。金型が専門だったらしい。バイクのマフラーの金型などを担当していたようです。その技術的な蓄積と誇りが由夫さんの中に強く深くあったと想像できます。ラーメン屋で店主の話を聞きながら、このエンジニアとしての深い蓄積が一挙に餃子製造機に結び付いたんだと思います。「これならできる!」と。この技術前提がなければ、何を思いつても何のリアリティも生じなかったでしょう。「世の中に自分の作ったものを認めてもらいたい」という思いと同時に、このエンジニアとしての蓄積が結びつくことによって、はじめてひらめきがリアルな出来事になったんだと思います。

■こだわり

ひらめいたあと、由夫さんは餃子製造機の開発に邁進したようです。試行錯誤には6年かかり、1975年に1号機が完成します。驚いたことに、1号機が完成したら、由夫さんは自動車部品の製造をやめてしまいます。餃子製造機一本に絞ったのです。勝負に出た。コケたら従業員もろとも終わりです。しかし、餃子製造機に賭けた。当時一緒にやっていた技術顧問によれば「彼は、ふつうの人ではやらない、やれないことができた」。確かにふつうではやらないでしょう。しかし、彼は餃子製造機に徹底的にこだわったのです。ここでこだわれるかどうかがイノベーションの鍵を握るんだと思います。

さらに由夫さんは小型化に取り組みます。どこの店でも電子レンジはある。電子レンジぐらいの大きさなら置いてもらえる。そこでさらに取組み、1988年に小型餃子製造機、「餃子革命」が完成します。

■顧客接点

しかし、こうして開発した餃子製造機はあまり売れませんでした。当時を知っている技術顧問によれば「経営者がエンジニア過ぎた」とのこと。営業下手だったわけです。そんな中、由夫さんは2007年になくなります。後を継いだのは現社長の正さんでした。彼は父由夫さんと違うタイプでした。エンジニアというより、むしろ調理師にあこがれているようなタイプでした。ですが、これが功を奏します。そもそも、餃子製造機自体は素晴らしいものでした。売れないのはそれを知ってもらっていないから。顧客に知ってもらわなければ、売れるわけありません。知ってもらうにはどうしたらいいか。実際に見て体験して味わってもらうのが一番なわけです。そこで正さんは、調理師にあこがれていたこともあって、「浜太郎餃子センター」というアンテナショップを立ち上げます。要するに餃子店です。餃子革命に関心の顧客に、来てもらって、餃子を食べてもらって、機械を見てもらって、実際に操作してもらう。これ以上に「知ってもらう」方法は他にないでしょう。これは決定的な顧客接点です。こうして餃子革命は売れるようになっていったのです。

餃子革命は現在累計販売台数6300台、イギリスやドイツをはじめとして世界42か国で使われているとのことです。

【結論】イノベーションを生み出すのはプリミティブな情念

以上、東亜工業の事例から、思い、ひらめき、技術、こだわり、顧客接点の5つのイノベーション要因を挙げてみました。もちろん、これを単純に一般化することはできません。ですが、ここで注目すべきは、イノベーションの源流にあるのは、市場調査や経営戦略といったロジカルなものではなく、思いやひらめき、こだわりといったプリミティブな情念のようなものだということです。ひょこひょことアイデアを出すアイデアマンがいればいいというものでもありません。ロジックでは導き出しようのない、あるいは表面的なアイデアでは獲得しようのない、深い思いや強いこだわりといった源的な力が、イノベーションを強く推進していくのではないか。東亜工業を見ていてあらためてそう感じました。

 

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