代表コラム 代表コラム
代表コラム

【2019年7月18日放送】[五の池小屋]絶景&美味「来たれ!夏山スペシャル」~続々!ヤマに新たな客を呼び込む男たち~

顧客を知るということは、常に難問です。顧客が分かれば、後は何とでもなるようなものなのですが、その顧客がわからない。しかし、顧客を深く知る決定的な方法がひとつあります。それは、自分も顧客だということに立ち返ることです。何らかの意味で自分が顧客であるからこそ、顧客のもつ核心部分が手に取るようにわかる。これほど強いことはありません。今回紹介のカンブリア宮殿は山の話なのですが、その中でも御岳山にある「五の池小屋」という山小屋について見てみたいと思います。顧客を知ることができるのは、まず自分が顧客だから。それが良くわかるのではないかと思います。

■頂上ではなく山小屋が目的

山小屋というのは、もともと登山者の避難所のようなもので、サービスとは無縁でした。食事は冷凍食品をプレートに入れた給食のようなもの。夜は赤の他人と雑魚寝。それが山小屋の常識だったとのことです。ところが、五の池小屋は全く違う。カフェがあり、そこでは手作りシフォンケーキが食べられる。食事は自家製味噌を使った鍋物。燻製チーズあり、手作りピザあり。お客は口々に「山でこんなものが食べられるなんて」と。山小屋でも家族用の個別空間があり、そこで気兼ねなく寝られる。小屋の前は絶景テラス。リクライニングから五ノ池や遠くの山々の絶景を堪能できる。お客は「この山小屋が目的で来ています。山頂まで行かないこともあります」とのこと。絶大なる指示を受けているわけです。

■自分の山体験を多くの人に味わってほしい

この山小屋を取り仕切るのは、小屋番の市川典司さん。市川さんは10代のころから、日本全国、そして世界を放浪したとのこと。20代のときに、富山の小さな山小屋で住込みで働きました。そこで山の魅力に魅せられます。そして、2000年に五の池小屋の小屋番に採用されます。はじめて五の池小屋の場所に来たとき、「こんなすばらしいところがあったんだ」と感じ、「よしやろう」、いや「やれる」と思ったんだそうです。放浪した体験、富山の山小屋での修行、山の魅力、そしてこの五の池のすばらしさ。そうしたものが市川さんの深いところで一つに結び付いて「やれる」と思ったんじゃないでしょうか。

市川さんは、山では何もしなくていいと言います。風景を見に行ったり、写真を撮ったり、高山植物を観察したりするということもあるでしょう。でも、そんなことをせず、ただ寝転がって風を感じているだけでもいいのだと。山を経験してきた人の、山体験の本質です。それだけではありません。山小屋に来る人たちは互いにとてもいい関係をつくりますが、それは山の力だと言います。人にはもちろん「いいところ」と「悪いところ」があります。でも、シンプルな山には悪いものを削り取ってくれる力があると言います。一般社会での職業や立場といった関係をなくしてしまうのです。日常を脱却したこうした山体験は、何よりも市川さん自身が魅せられ味わってきたものでしょう。だからこそ、多くの人にこの場所を味わってほしいという思いが市川さんの中から出てくるのです。

■「自分も顧客」

「自分がいいと思うものを人に伝えたい」と思うとき、自分以外にも山の魅力に魅せられる人たちがいるはずだ、という確信が市川さんにはあったはずです。山小屋をやる以上、その人たちが顧客になるわけです。でも、距離感のある顧客ではありません。山の魅力という価値でつながっている顧客です。その意味で市川さんと顧客は1つなのです。これこそが「自分も顧客」ということの本質だと思います。だからこそ、顧客の思いもわかる。何をすれば顧客が喜ぶのか、何を提案し、何を勧めれば顧客がよりハッピーになるのか、はっきりと見えるんじゃないでしょうか。

■お客を呼び寄せる「他にはないサービス」

市川さんが考えたことは、「お客を山に呼び寄せる他にないサービス」でした。このあたり、素朴に山小屋をやっているという感じではありません。完全にサービス設計の理にかなっています。「他にはない」ということが重要なのです。「「山にこんなものがあるんだ」「こんなものが食べられるんだ」と驚かせたい」。こうした考えが一貫してサービス設計の基本にある。だからお客さんが五の池小屋を目当てに登山をするようになります。もちろん、それを実際にやることは並大抵ではないでしょう。でも、市川さんは言います。「「山だから仕方がない」と妥協しようと思えばできるが、そこを最後までこだわると本当にいいものができる」。この「そこまでやるのか」というこだわりこそが、カフェ、本格的夕食、手作り燻製チーズやピザ、絶景テラスを生んだのであり、それが顧客を呼び寄せてやまないのです。実際、700人ぐらいだった宿泊客は3500人にまで増えたそうです。

■お客が生きている状況を知る

もちろん、お客さんは市川さんほどの山体験はないでしょう。なので、さらに深く山を味わってもらいたいというのが市川さんの願いではないかと思います。そのためには、お客が現状置かれている状況をつかむ必要があります。そこからはじめてお客が山に求めるものが見えてくるでしょう。いわば、顧客の課題把握ですが、この点もちゃんと行われています。市川さんは、山小屋をどうしていったらいいか、山にいてもわからないと言います。むしろ東京の街中を眺めた方がいい。「街の人が山に行く動機はこの街にいないとわからない」。街の中で生きることが、街の良さと同時に山の体験をも切実に求める。そういうことなのでしょう。

【結論】「自分も顧客」はビジネスでの普遍的方法

こういう踏み込んだ価値体験をサービスの核に据えるというやり方は、スモールビジネスの可能性を示していると思われます。山小屋をビジネスとするなら、もちろん、何百億円、何千億円といったビジネスにはなり得ません。ですが、こういう日常性を脱却するような深い体験を一定の人々と共有するというサービスのあり方は、さまざまな領域で可能ではないかと思います。たとえ規模は小さくても、そこに喜びがあり、幸せがあるのなら、ビジネスとしては十分に成り立つのです。自分が好きだから、自分が魅せられたから、やる。それはスモールビジネスの一つの重要な起点ではないでしょうか。しかも、その根底にある「顧客を知ることができるのは、まず自分が顧客だから」という考え方は、大規模なビジネスも含めて普遍的な意味を持っているのではないかと思います。

 

[関連記事]

【2019年7月11日放送】[ヤタローグループ]ビジネスに永遠はない!変幻自在で挑む 大胆サバイバル戦略

【2019年7月4日放送】[テルモ]北里柴三郎のDNAで売り上げ急拡大 驚異の技術力と熱意で医療に革命を!

【2019年6月20日放送】[サンキュードラッグ]地域の健康を守る!異色のドラッグストア

【2019年6月13日放送】[グリル満天星]2人合わせて164歳!洋食にかける男達の飽くなき挑戦

【2019年6月6日放送】[土佐料理 司]「土佐料理」の名付け親!地方活性化も図る100年企業