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【2019年6月20日放送】[サンキュードラッグ]地域の健康を守る!異色のドラッグストア

サンキュードラッグは北九州市から下関にかけて展開している地域に根差したドラッグストアです。ふつうであれば、そこを拠点に全国へ、と考えてもよさそうなものなのですが、社長の平野健司さんは「そんな気はさらさらない」と言います。なぜか? その理由は、サンキュードラッグ独自の「顧客の発見」にあったと私は思います。では、「顧客の発見」とは一体何なのか? それが今日のテーマです。

■人口減少、高齢化に直面

サンキュードラッグは、社長の平野健二さんの両親が1956年に鉄鋼の町北九州市で開いた薬局が始まりです。おりしも高度経済成長期。売上も順調に伸びたとのことです。しかし、80年代あたりから鉄鋼が衰退し、北九州市は人口が減少、高齢化が進んでいきました。そこで、当然ですが、人口が増えているところ、消費が盛んなところに店舗展開をしました。福岡です。福岡は北九州市と違って人口が増え、若者も多かった。なので、大型店3店舗を出した。何の不思議もない戦略です。ところが、これが大失敗。撤退の憂き目にあいます。

■大手に対抗も、撤退を余儀なくされる

なぜか? 人口も増え、若者も多い福岡には、大手がひしめき合っていたのです。若い人たちはクルマで郊外にも行けます。郊外に大型店を展開していくというのであれば、資本力のある大手にはかないません。品揃えも、多くの人たちに受け入れられる汎用的なものであれば、やはり調達力のある大手にはかないません。ということで、勝ち目なく、撤退を余儀なくされたのです。

■転機!「オレのパンツ、どこで買えばいい?」

そんな折、転機になった顧客の言葉がありました。「これからオレのパンツ、どこで買えばいいんだ」。そう言われたんだそうです。何で薬局にそんなことを言うのか? と、一笑に付していれば、今日のサンキュードラッグはなかったかもしれません。しかし、平野さんはそこから重大なヒントをつかんだのです。経営にはこういう決定的な飛躍の瞬間があるんですね。

■「顧客の発見」

北九州市では人口減少と高齢化のため地元の商店街が衰退し、クルマで郊外に行くこともままならない高齢者は、まさにパンツも買えなくなっていたのです。しかも、高齢者は誰よりも医療を必要としている人たちです。平野さんはこれをきっかけに重大な発見をするわけです。

何を発見したのか? 顧客を発見したのです。

ふつう経営戦略では事業ドメインを明確にし、その際、顧客の定義をします。しかし、この場合、そんなレベルの話ではない。会議室で議論しました、といった次元ではない。目の前にいる顧客を肌身で見い出したのです。遠くに行けない人たち。日用品を買うのもままならない人たち。そして、ますます健康に不安を抱えざるを得ない人たち。この自分たちの周りにいる地元の人たちこそが、顧客である、と。

■大手とは違う「生き方」

そこから方向性が大きくに転換していきます。「利益を出すことではなく、地域の役に立ち続け、存続する」。「地域の人に商品やサービスを提供し、従業員に安心を提供する」。平野さんはこのときから「大きくなることを捨てた」と言います。「大手とは生き方が違うのです」。

■高齢者が安心して暮らせるために

1996年に今日に通じる大型ドラッグストアを初出店します。それは「食料品から日用品まで何でもそろう地元の人に便利な店」でした。サンキュードラッグでは、食品はスーパーなみ、高齢者用に杖や買い物カートまで置いてある。さらに、国の資料で「都市部の高齢者は生活の8割が半径400m以内で完結する」というのを読んで、高密度出店戦略を考えつきます。1km圏内に1店舗を展開し、高齢者が歩いていけるということを重視したのです。

モノを売るだけではありません。健康教室もやっています。病気になってから薬を買うのではなく、病気にならないような生活をするということで、全部で63人いる管理栄養士が食事や運動の指導をしているのです。たとえば、顧客の高齢者に1ヶ月の献立を出してもらって、健康状態に合った栄養指導をしたり、体操教室などで運動指導をしたりする。さらに、介護保険を用いて、管理栄養士が高齢者の自宅を訪れ、訪問栄養食事指導をするとのことでした。

さらに斬新だと思ったのが、「医療モール」です。サンキュードラッグの広い敷地の中に病院を誘致するのです。場合によっては、介護施設や保育園も誘致する。これにより、病院に来た人たちが薬だけでなく、日用品も買える。介護施設の高齢者が気楽に買い物ができる。高齢者と園児たちが交流できる。こうした地域の高齢者の生活に根差したサービスが展開されているのです。

■小売りとは、相手の困りごとを解決すること

結局、小売りとは何をすることなのか? 平野さんは「相手の困っていることを解決する」ことだと言います。「お客は自分の欲しいものがわかっていない。それをプロとして「あなたにはこんなものがあったらいいんじゃないか」と提案する。お客は「あって良かった」と思う」。これが小売りなんだ、と。

■【結論】本当に「顧客」を発見できているか?

そのすべての転換点に「顧客の発見」があったんだと私は思いました。最近は「顧客体験(CX)」の重要性が言われます。私もそう思います。しかし、顧客体験を重視しようと思えば、その前に、顧客を発見しなければならないのです。統計的に属性分析されたような顧客ではなく、実際に目の当たりにし、肌身で感じ、その人たちの困っていることを解決したいと思うような「顧客」を発見することなくしては、顧客体験に踏み入ることは決してできないんじゃないでしょうか。

もちろん、それはこれまでなかった全く新しい取り組みになるでしょう。平野さんも会社の中で、そんなできそうもないことをいつまで考えているんですか、と反対にあったそうです。それに対する平野さんの言葉が私には最も印象的でした。「できるかできないかはわかりません。でも、やるべきなんです」。